米国の美術家、マシュー・バーニー。
伝説的フィルム作品『クレマスター』サイクル全5部作の中で、唯一 マシュー・バーニー本人が出演してない作品。
CREMASTER 1, 1995 Photo Michael James O’Brien
© Matthew Barney, courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels
マシュー・バーニー『クレマスター』シリーズ5部作で最も西のアイダホ州ボイシで撮影!
ハリウッド・ミュージカル風の短編フィルム
『クレマスター1』
1995年/アメリカ/カラー/35mm/40分30秒/1:1.37/ドルビーSR
【スタッフ】
脚本・監督:マシュー・バーニー
制作:バーバラ・グラッドストーン、マシュー・バーニー
撮影:ピーター・ストライトマン
音楽:ジョナサン・べプラー
振付:マシュー・バーニー、ジュリー・スティーブンス
スチール:マイケル・ジェームズ・オブライアン
デジタル・アニメーション:ジョン・バウマン(セレフェックス)
メイク:アンドレア・パオレッティ
ヘア :アヴラム(ヴィダルサスーン)
衣装 :アイザック・ミズラヒ(グッドイヤー・エアーホステスのみ)
衣装 :カレン・ヤング(「グッドイヤー」コーラスガールのみ)
衣装 :ミノロ・ブラーニク、リンダ・ラベル
【キャスト】
グッドイヤー:マーティー・ドミネーション
「グッドイヤー」エアホステス:
タニス・バークレー、ジェンマ・ブルドン・スミス、ミランダ・ブルックス、キャサリン・クレボー、ニーナ・コトフ、カリー・マッキャン、キャサリン・ムルカヒ、ジェシカ・シェアウッド
「グッドイヤー」コーラスガール:
アン・バナート、ジェリエット・ヴァシルキオ
マシュー・バーニー『クレマスター1』
【あらすじ】
米国・アイダホの州都、ボイシ。
マシュー・バーニー生誕の地である。
アメフト用の巨大なブロンコ・スタジアムでは、青いコートの上で白いドレスのコーラスガールがラインダンスを繰り広げている。明るい音楽とともに、満面の笑顔を振る舞う彼女たちは「グッドイヤー」コーラスガールだ。
その上空には、2台の飛行船が浮かんでいる。スポーツ・イベントの宣伝などで使われるラジコン操作の有人飛行船。アメリカのタイヤ会社、グッドイヤーが「ブリンプ」と名付けたものである。
2台の飛行船には、それぞれに4名ずつエアホステス(客室乗務員)が乗っていた。皆、アイザック・ミズラヒがデザインした1930年代風の制服を着用。彼女たちは一様に気だるそうで、タバコをふかしたり、窓から外を眺めたりしている。
アンビエント・ミュージックが流れる中、無表情な客室乗務員たちが乗る「ブリンプ」だが、その中央には大きめのテーブルがある。
白いテーブルクロスに覆われたテーブルには、白いアールデコ調のオブジェとともにブドウの房が置かれていた。
一方の飛行船には緑のブドウで、別の飛行船には紫のブドウ。不思議なことに、それぞれのテーブルは下でつながっていて、そこには「グッドイヤー」と呼ばれる女神が窮屈そうに潜む。
テーブルの脚に絡まる女神の「グッドイヤー」。針を使って、白いテーブルクロスに穴を開けてみる。そして、その穴からブドウの実をを取っては、床に並べるのであった。
女神が無邪気に並べたブドウ。それは、子宮と卵巣の形なのか?
やがて、地上の「グッドイヤー」ダンサーズまでもが、同じ形をつくり始めるが…。
米国の振付師・映画監督であるバズビー・バークレーの超大作にオマージュを捧げたハリウッド・ミュージカル風の短編作品。
『クレマスター』シリーズ全5部作の中で、唯一、マシュー・バーニーが出演していないが、ブドウを並べた形とラインダンスの形が、マシュー・バーニーの「フィールド」エンブレムを示している。
CREMASTER 1, 1995 Photo Michael James O’Brien
© Matthew Barney, courtesy Gladstone Gallery, New York and Brussels
グッドイヤー
フットボール用スタジアムの上空に浮かぶ2つの飛行船には、「GOODYEAR(グッドイヤー)」というロゴが大きく入っている。
それは、米国の発明家、チャールズ・グッドイヤーが興したタイヤ会社の名である。
『クレマスター1』の出演者はすべて女性だが、主役のマーティー・ドミネーションが演じる女神は「グッドイヤー」と名付けられている。
ほかの役柄も「グッドイヤー」エアホステス、「グッドイヤー」コーラスガール、「グッドイヤー」ダンサーズと、それぞれ「グッドイヤー」の名がクレジットされている。
子宮と卵巣の形
2台の飛行船を持つ女神の姿は、子宮と卵巣の形と似てないか?
バズビー・バークレー(1895-1976)
米国の振付師・映画監督。名作『四十二番街』(1933)など、多くの名作を振り付け・監督し、ミュージカル映画の一時代を築いた。その立体的な演出、幾何学的な群舞、自在なカメラワークは、1930年代の映画界で最大の偉業とされている。
『クレマスター1』で、女神の「グッドイヤー」が飛行船のテーブル下でブドウの実を並べるシーンがある。そのブドウの配置にあわせ、フットボール・コートで群舞が広がる。
これはマシュー・バーニーと振付家のジュリー・スティーブンスによる演出だが、いかにもアメリカ的と思えるあたり、ハリウッド・ミュージカルで一時代を築き上げたバズビー・バークレーをも彷彿とさせる。
画像出典:http://cremaster.net/
「フィールド」エンブレム
1987年「拘束のドローイング1」で初登場以来、マシュー・バーニーが頻繁に使用するシンボル。もちろん『クレマスター』シリーズでも多用。
楕円に長方形が重なる形で、楕円の部分が身体を表し、中央に重なる長方形が負荷を意味している。
『クレマスター2』あらすじは、こちら
『クレマスター3』あらすじは、こちら
『クレマスター4』あらすじは、こちら
『クレマスター5』あらすじは、こちら
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