Motion Pictures Project at Mae Ma School(モーションピクチャー・プロジェクト)
会期:2023年12月9日〜2024年4月30日
会場:Baan Mae Ma school(チェンライ北部の学校跡地)
元学校が展示会場
中心市街地より車で移動。ツアーでの来場が多い
第1のモーション
タイトル:Blue Encore(青のアンコール)
2023年/インスタレーション
レール、コントロールユニット付モーター、絵画を印刷した布(Noppanan ThannareeとAmnart Kankunthodによる絵画を印刷)
チェンライの画家、Noppanan Thannaree。彼の絵が正面に向かって右側の布に印刷された
この数年、アピチャッポンが自作の中に取り込んできたのは、イメージづくりに関する品々です。
例えば、タイの伝統的なパフォーマンスにおける、紙芝居みたいな動きをする背景画。背景の絵を手作業でまくり上げるタイの伝統的な手法は、パリ・オペラ座の委嘱作品『BLUE』(2018年)などに登場します。
Opéra national de Paris. (2018). BLUE by Apichatpong Weerasethakul
それから、映画用の白いスクリーンや映画館の暗幕、吊り紐、滑車などをアピチャッポンは自作の中で扱っています。
そうした品々は、通常のイメージづくりにおいては補完的な役割でしかありません。しかし、アピチャッポン作品の中では前面に押し出されています。
本作《Blue Encore(青のアンコール)》でアピチャッポンは、タイ・チェンライの画家が描いた絵画3点を起用しました。それぞれ違う風景が描かれていますが、どれも青や緑を基本の色調としています。
アピチャッポンは、それら3枚の絵を拡大して大きな布に印刷しました。その布地3枚で、昔は学校の教室だった空間の前方を覆ったのです。
3枚の布は、自動的に動きます。それぞれが閉じたり開いたりして、三重のカーテンのように機能します。元教室で3枚の風景画が隠れたり、現れたりするアニメーションと化したのです。
時折、布のカーテンが全部開きます。すると、まだこの部屋が学校だった頃、美術の授業で使われていたホワイトボードが見えてきます。
ホワイトボードには、授業中に書かれた文字が今も残っています。このように書かれているのです。
“想いのままにアートをつくってみよう“
第2のモーション
タイトル:Solarium (ソラリウム)
*ソラリウムとは、太陽の光を取り入れるためのガラスが張られた部屋。日本語だと、サンルームとも呼ばれます。
2023年/2チャンネル・ビデオインスタレーション/19分32秒(ループ)
ガラス板2枚、ホログラフィック・フィルム、プロジェクター2台、音響システム
子どもの頃、アピチャッポンは『The Hollow-Eyed Ghost』というホラー映画を観ました。1981年のタイ映画で、原題は『ผีตาโบ๋ (ピー・ターボー)』になります。
医師が目の見えない妻のために人を殺して、その眼球を妻に生体移植する物語です。妻にぴったりな目玉はなかなか見付からず、次々に殺人を繰り返す医師。ついに妻と合う眼球を手に入れますが、その持ち主が幽霊となり自分の目を取り返しに来ます。最後は太陽が昇り、陽光で幽霊男が破滅するのです。
そんな恐ろしい映画に対する、アピチャッポンなりのリアクションが本作です。
ガラスのスクリーンに映像が投影され、同じスクリーンに逆方向から別の映像が映される形態です。ひとつ目のビデオは、アピチャッポンが描いた幽霊の映像になります。
ホラー映画『The Hollow-Eyed Ghost』に登場する幽霊男の動きから、アピチャッポン自身の記憶に残る部分だけを取り出して独自の映像と化しました。
別のビデオが、ガラス製スクリーンで仕切られた逆側の部屋から投影されます。その映像は光の動きそのものです。
映像ふたつが重なり、幻想ともいうべきものが目に見えたり、目には見えなかったりする中で行き交うのです。
幽霊ビデオに使われた重低音サウンドは、古びた木造校舎を構造ごと震わすほどです。まるで映像内の幽霊と一緒に実際の建物が呼吸するかのようです。
幽霊というものは、映画作家と同じで、光の仕組みを探しているのでしょう。
夢みたいな状態から抜け出せず、自作のソラリウムにずっと閉じこもり、暖かな光を放つ太陽を切望する幽霊。本作のタイトルは、そんなニュアンスです。
本作は、視覚的な観点から部屋をふたつに分けています。ひとつは、映像を観る部屋。もうひとつは、光や参加者、建築を観る部屋です。
幽霊ビデオの向かいの部屋。ガラスのスクリーン越しに観客の姿が見える
第3のモーション
タイトル:二重仏
かつて学校だったこの場所。元校舎の外には、今も仏像があります。
アピチャッポンは仏像のレプリカをつくり、本物に正対させました。つまり、鏡像を校内に配置したのです。
偶像を複製してみたら、どうなのか?本物から軸をぶらすと、どうなるのか?そんな問いかけをしているのが、本作です。
神聖な存在を唯一絶対視することを疑ってみる。そして、物質へのこだわりを超越すべく、多様で進歩的な発想を受け入れてみる。そんなアプローチで、本作が成り立っています。
上記のテキストは「タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023」での説明文(英語)を意訳したものです。原文を以下につづけます。
意訳・追記:鈴木朋幸
写真:Mai Mori、Fumiko Nagayoshi、Tomo Suzuki
Motion Pictures Project at Mae Ma School
The 1st Motion
Title: Blue Encore
Technique: Installation
Materials: Rails, motors and a control unit, printed fabrics from the paintings of Noppanan Thannaree and Amnart Kankunthod
For the past few years, the artist has been incorporating image-making components into his works. He activates parts that usually serve as supporting elements, such as painting backdrops in traditional performances, white movie screens, cinema curtains, ropes, and pulleys. In this work, three paintings by Chiang Rai artists are enlarged and enveloped in front of the classroom. They depict landscapes with diverse blue and green hues. They are animated, either blocking or revealing each other. At times, we see the existing whiteboard, which bears the text of an art lesson from years ago, when the school was still in operation. The text outlines the steps for creating artwork using solely your mind.
The 2nd Motion
Title: Solarium
Technique: Double-Channel Video Installation
Length: 19:32 minutes (looped)
Materials: Two glass panels, holographic film, two video projectors, an audio system
The work is a recreation of the artist's childhood horror film, 'The Hollow-Eyed Ghost,' (1981), in which a doctor murders a man in order to get his eyes for his blind girlfriend. The man's spirit haunts the neighborhood, searching for his stolen eyes. He was eventually destroyed by the rising sun. In one video, the artist selectively depicts bits of the ghost's actions that stand out in his memory. It is shown against another video from the opposite room that features the movement of lights. The illumination in the two films modulates between the visible and the invisible. Additionally, the soundtrack causes the school's wood structure to vibrate, providing aural backdrop for the work, as if the entire structure is breathing alongside the ghost.
The ghost, like a filmmaker, is always in search for an apparatus to experience light. The title hints at the ghost's inability to escape this dreamlike state, forever trapped in a solarium of his own creation, yearning for the warmth light of the sunrise.
The work is separated into two rooms based on the visibility of the projection. One is a screening room, and the other is an observation room for light, people, and architecture.
The 3rd Motion
Title: The Double Buddhas
In front of the school, there is a Buddha statue. The artist introduces its replica on the opposite side, creating a mirror image. The work focuses on duplication and axis modifications for a revered object. This approach encourages us to question the notion of a singular, fixed representation of divinity and to embrace the idea of multiplicity and evolution, to the path of transcending physical forms.
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